もちもちの猫のほつれた右手

だいたい付き合っているヒモの話 不定期更新

店内大変滑りやすくなっておりますのでお気を付けください

 バキバキに割れていた携帯を取り替えてもらった。

 何度かやっているので比較的スムーズにデータも移行でき、ゲームのデータもきちんと引き継げていたようだ。見違えるようにうつくしくなったiPhoneはそれはそれは画面が見やすくて、漫画や小説を読んでもヒビによって分断されることがないのであった。

 バキバキの画面の携帯を黄色い封筒に入れてポストに返却する。どこにいくのかはわからない。もうクローンなように中身が同じな新しいスマホをいじりながら、なんだか捨てられるこの子が可哀想にも思えてくるのだった。初期化してしまったので、helloしか言ってくれない。世界の言葉でこんにちはと画面に映し出すこのひびの入った携帯は確かにさっきまで私の端末だったはずなのだけど。ローソン店内のポストに入れたら何も入っていなかったみたいで、がこん、と少し大げさな音がしてびっくりした。

 

 ローソンに行ったら制服のポケットにじゃがチョコが無理やり突っ込んであった。普段全くシフトが被らない平日昼間のパートの女の子がバレンタインだ!と言って大量のお菓子を持ってきたららしく、事務所がお菓子パーティーの有様だった。小腹が空いた時みんなで食べているようだ。もしなくなってもいいようにポケットに突っ込んでおいてくれたのかもしれない。

 彼女は数個上で双子の小さな子がいるママなのだが、小柄でこれでもかというほど童顔なのである。ローソンに入ってきた当初、私は高校生のバイトが増えたな…と思っていたくらいだ。としをきいて子供の写真を見たときには流石に引いた。彼女こそ本当の美魔女である。私服だと普通にお姉さんに見えるし。

 毎週同じ時間にシフトがあるので、会わない人には本当に会わなかった。結局バイトを再開してから店長に一度も会わなかった。会わなくてもお菓子をくれる人がいる。存在を認識されているようで嬉しかった。

夜明けの街でサヨナラをという曲を思い出した。

 

youtu.be

 

 

バイトのユニフォームのポケットからでてきた

なんてことない手紙であなたを好きになったんだ

 

 コンビニバイトは24時間やっていて閉店時間ってものがないから、常に店のいたるところにメモが貼ってある。仕事が多すぎるのでいちいち覚えていられないので助かっている。特に事務所は酷くて伝言板のようなありさまになっている。出勤したときに、それを読むのが楽しみでもある。

「リゼロのくじ余ったら夜勤さん買い取りませんか?だったら店でとります」「新発売のお菓子美味しくなかったのでご自由にどうぞ」「節電しろ」「夜勤暇だったらレジ内掃除して」「○月▶日は近くでバスケの試合あるからからあげクンをめちゃつくる」「これあしたまでにやる」「○○さんから要望 ◆◆パン5個お取り置き」「得体のしれないおでんの具は売れないから今度からとらない」

にぎやかでゆるゆるで楽しいバイトだった。新商品を常にチェックできるしゲームの話が出来たしみんな優しかった。それぞれの文字で書かれるメモがおどる事務所が好きだったし、一緒に仕事をしていたフリーターの4つ上くらいの男の子が本当に癒しだった。ゆるゆるでふにゃふにゃした話をする人だった。何をしゃべっても「マジで?」か「あーね、わかる」くらいの返答を返してくれるので頭を使わなくて済んだ。彼のおかげでメンタルが保てていた部分もあるだろう。

明日その店を辞める。はじめてのバイトだったので初期は死ぬほど使えなかったし、一度辞めてからもよくしてもらっていて感謝しかない。明日は少しかみしめるように働こうかと一瞬思ったけれど、多分いつものようにお腹すいたなあって思いながら不愛想にレジを打って終わるのだろう。